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「竜と唄」
ある所に小さな竜が居ました。とは言っても、人からしたら充分大きい竜が居ました。
その竜は、仲間達よりも小さ過ぎて空を飛んでいる内に仲間とはぐれてしまい、長い間ひとりぼっちでした。
誰かに気付いて欲しい、自分はここに居る、そう知らせる為に明くる日も明くる日も歌を歌いました。
しかし、誰も聞いてくれません。だったら、小さな竜は何故歌うのでしょうか。
ある日、昨日と同じように歌い終わると声が聞こえました。声がした方へ見ると小さな竜よりも更に小さなヒトが居ました。
それは少年か少女か解らない、美しくも醜くもない。平凡、と言う言葉しか出ない子どもがそこに居ました。
そんな平凡なヒトから出る言葉も平凡で、飾りっ気のない単純な…それでも心が、温もりがある、優しさがあるそんな言葉でした。
小さな竜とヒトは、竜が知ってる歌を。ヒトが知ってる歌を互いに教えるように歌い続けました。毎日、毎日飽きる事なく。
ヒトが大きくなって平凡だった姿も平凡のままでしたが、それでも大人になっていました。それでも竜は小さいままでした。
ヒトは変わらず、竜と共に歌を歌っていました。そんな日々の中にも、竜には遠くで大きな音が響いているのが聞こえていました。
ある日を境にヒトは来なくなりました。長い長い間、雪が降り続けました。痛みを抱くように、雪は降りました。
雪が止んだ後も、ヒトはやって来ませんでした
そうして、竜はまた誰かに聞いて貰う為に唄を歌い続けるのでした。雪へ歌う唄を、ヒトの為の唄を。
大きくなった竜は晴れた空を翔け、その唄を零すのでした。
めでたし、めでたし
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