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「白黒桜」
ある雪の降る場所、普通なら見る事もない雪が降る、色を失った大地にその桜はありました。
その桜は普段は真っ白なのですが、ある期間だけまるで墨を零したかのように真っ黒になるのです。
桜は、人の姿になる時もありました。大きな桜に対しては少女の姿は小さく。白い髪に黒い瞳を持った少女になれました。
しかし、人の姿になったとしても人はやってきません。
彼女は普段は桜になって、人が来ないか待っているのです。
桜に気付いた人には、その人が行かなくてはいけない所へと連れて行くのです。そうして、大切な人を捜しているのです。
自分をここに植えた人、ある期間まででしたが成長を見守ってくれた人。それが彼女の、白黒桜の逢いたい人なのです。
しかし、それも遠い昔の事です。いずれ記憶とは失われていきます。
彼女は忘れない為に、色んな人から記憶を集めているのです。記憶を集めて、大切な人が居ないか探しているのです。
その結果、真っ黒になってしまうのです。
そうして、見付からなかったらその集めた記憶を元の所に返して、白に戻ってまた記憶を集めての繰り返しをしています。
桜は待っているのです、どこかに行ってしまった大切な人がまたここに戻ってくる事を、ワタシはこんなにも大きくなったよ、と。きっと人になったら大きくなっているだろうと。
そして彼女は今日も、けして人がやっては来ない荒廃した白黒の大地で待ち続けるのでした。
めでたし、めでたし
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