墨の星
「なぁ、お前いつになったら夢から醒めるんだ?」
ふとした友人の発言。
友人達にとって、発言者にとっては何気ない一言だとしても。
俺は、聞き手にとっては。
どうしようもない程鋭い刃にもなる。
歳がどうした。
現実がどうした。
利益何て考えるな。
"夢"にそんなものを混ぜたら夢じゃなくなるだろう。
それだけで、夢を創り続ける事が悪だと言うのか。
ならば俺はひたすらに悪の道を進むだろう。
大人になりたくないと言う訳じゃない。
いや、ならなくても良いのならなりたくないのだけれども。
それは感性の問題で、それ以外には何もない。
「放っておいたら、お前がいつまで…………」
止めろ。耳障りだ。
将来や家庭、安定とか保証だとか。
見えない未来をネタにして、心配と言う言葉を使うのは。
そんなもの、誰にも解らない癖に。
安定も一瞬で失ってしまう脆さがあるのに。
それにも気付けない癖に。
そんな安定に何の意味があると言うんだ。
現実から逃げ出しているだけだと。
良い年をしていて空想家だとか。
人生を舐めているだとか。
心がいつまでも子どものままだと。
好きなだけ言えば良い。
それがやりたい事何だ。
それが自分を表現する最大の手段何だ。
偽りない、自分の書きたいセカイなのだ。
それでも、幼い日に見た物語は。
一体誰の創作だったのか、幼い少年には書けはしない。
馬鹿にしてくれる友人達よ、幼き日々を忘れたか。
俺はその幼き日々を忘れはしない。
夢追い人と言われても構わない。
それが、俺の人生を捧げてまで選んだ道だ。
賞賛されたくてやっている訳ではなく。
涙を流して感動されたい訳でもない。
ただ、誰の心に残れば良い。覚えて貰えれば良い。
幼い少女の記憶何てそんなものだ。
その物語を題材にして、自分の物語を作り出す。
自分がお姫様になって、王子様と結ばれるお話を。
自分が英雄になって、悪い竜を倒しお姫様と結ばれる話を。
俺は、そんな題材になる物語を作れれば良い。
大きな存在に絶賛して欲しい訳ではない。
か弱い存在に残れば良いだけだ。
それ以上は望んでいない。
ただ、それだけなのだ。
童話とは、そう言うモノだろう。
幼き日々に夢見たモノは、こうだっただろう。
かの童話作家もそうだったように。
唯一創作をした彼の童話作家のように。
死してやっと評価された彼のように。
ひたすらに自らのセカイを書き現すだけだ。
────誰かが、才あるものは星が輝いている。と言った。
それこそ俺が幼き頃に聞いた言葉。
しかし、それを今でも信じている。
俺の夢追いは未だに、いや。
永遠に終わりはしないのだから。
空気が澄んだ、何ひとつ遮るもののない大空。
凍えるような風が染みるように。熱を奪っていく。
光は月光、それ以外の光は全て眠っているかのように。
墨を溶かしたような空に、色とりどりの宝石を砕いたかのように星々が瞬く。
暗闇に点々と、明るい焔が灯るように。
夜空を見上げても関わらず、まだ見えない。
俺の星は見付からない。
いや、まだ生まれて時間が浅いのだ。
ここまで光が届いていないだけだ。
俺にも星はある。まだ、見付けてないだけだ。
きっと、ここからは見えないだけで。
「…………………………」
止めろ。
俺の創作を否定しないでくれ。
その心配は、お節介何だ。
俺は俺で考えてやっている事何だ。
俺のセカイを否定しないでくれ。
その心配は、その優しさは苦痛にしかならない。
俺を、否定しないでくれ。
それが、唯一俺が生きている理由なのだから。
どこかのよだかのように、星を探しに行く事だって出来る。
書き続けていれば、認められる。
意味のないもの。と言われないように。
…俺が生み出した、心をここにあると言う為に。
見えない星に手を伸ばす。
かじかむような寒さに耐えきれず、ぷつりと指先から赤いモノが滴る。
熱帯びたそれは外気に触れ、冷たいものになってしまうが。
それはまだ俺の中に流れている。
ここに居る、生きている。
それなのに。
────まだ、星は見えない。